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ゲスト
戸坂 明日香
とさか・あすか
2012年東京藝術大学大学院博士後期課程を修了。「日本人女性の三次元復顔法-寛永寺谷中徳川霊園墓所出土大奥女性の復顔-」で博士号(美術)を取得。日本科学未来館、株式会社A-Labの勤務経験を経て、2020年より京都芸術大学文明哲学研究所の准教授(現在は客員准教授)、2025年より京都大学・人と社会の未来研究院特定研究員。復顔師。

「バランス」が日々のパワーの根源
夢は芸術と科学とを融合した子ども教室

「復顔」とは、人間の頭蓋骨をもとに、生前の顔を復元することをいいます。 戸坂明日香さんは、これまでに古代人から現代人を対象とした復顔像や復元画を制作し、 博物館や科学館などで展示しているという“復顔師”。 今号では、復顔をテーマに、その出合いから魅力、 さらに復顔を通じて得たさまざまな気づきや今後の夢について語っていただきました。

サスペンスドラマでよく見る復顔とは

『科捜研の女』や『法医学教室の事件ファイル』などのサスペンスドラマを見ていると、事件解決の手がかりを得る技法として、主人公が「復顔制作」に没頭しているシーンに出合ったことがある人は少なくないはず。
頭蓋骨から生前の顔を復元することによって、事件の真相に迫っていくという展開は、ちょっと不気味さを漂わせる復顔像効果もあって、ドラマであることも忘れて、その瞬間だけは不思議と記憶に残っているものです。
「警察における復顔は、目撃情報を集めることを目的として行われる、いわば最終手段。そのためにはリアリティがあったほうがいいと思う一方で、それが強すぎてしまうとかえって目撃情報が減ってしまうという難点もあるので、あまり作り込みすぎず、少しあいまいにしておくくらいのほうがいいようです」
そう語るのは、復顔を専門とする研究者であると同時に、みずからも“復顔師”として実作業に携わっている戸坂明日香さん。“復顔師”は戸坂さんによる造語で、国内においては唯一無二の存在だそうです。

彫刻は目で見て、触れて感じるもの

戸坂さんが復顔と出合ったのは、東京藝術大学大学院博士課程の1年目の頃。その基盤となっているのが彫刻との出合いで、それはさらに高校2年の冬にまで遡ります。
「私は群馬県出身です。地元高崎市の美術館で開催された彫刻家・柳原義達さんの『目で触れる、手で触れる』という作品展を見に行ったことが、私にとって大きな転機になりました。柳原さんはブロンズ像をたくさん手がけられていた方ですが、訪れた会場では、数々の展示品に触れることが許されていたのです。また会場には感想ノートがあって、ただ単に作品を鑑賞するだけでなく、実際に手で触ることで感じられた面白さなど、さまざまな意見が記されていました。『人は、たとえ視力を失っても、彫刻であれば触ることによって感じることができる』、そう気づいたとき、自分が表現したいありのままの気持ちを伝えられる最善の方法は、彫刻ではないかと感じたのです」
五感の中の“触覚”は、ほかの感覚機能に比べると、直接的あるいは瞬間的に感じられるのではなく、みずからの意志のもと、指先で実際に触れるという間接的行動を通じて得られる感覚です。戸坂さんはそこに魅力を感じ、それまでのデザイン科志望から一転、彫刻科へとシフトチェンジし、東京藝術大学美術学部彫刻科に入学。 「とはいえ、彫刻が得意だったわけではなくて……。ただ、入学してから、彫刻で食べていける人はほんの一握りということを、身を以て知ることになりました(笑)」
ところで、彫刻にも2つの方向性があるそうです。
「木や石であれば、ひたすら削っていくという作業が求められます。一方、私が専攻していたのは土や金属で、取ったり付けたりを繰り返しながら形をつくっていく手法です。私の場合は、どうやら土や金属のほうが性格的に合っていたようで、木や石だと玉ねぎを剥いていくように、納得がいくまでどんどん削ってしまって、最終的には想像していたものより随分こぢんまりとした仕上がりになってしまうのです(笑)。木や石を専攻している同級生は、『木や石は、ここまでしか彫れないというギリギリのラインがあるけれど、粘土は永遠に終わりがない。終わりがないほうが難しい』と言っていました」
結果的には、戸坂さんのこの性格こそが、復顔の作業ときわめて相性がよかったといえるのです。

復顔に生かされた美術解剖学

「復顔との出合いは、大学院生の頃に法医人類学者の講義を受けたことがきっかけです。私は学部の4年間は彫刻科に、大学院からは芸術表現のための解剖学である美術解剖学の研究室に所属していたため、復顔を知ったときは“これはまさに彫刻×美術解剖学だ”!と感じました」
そして、それを機に戸坂さんは『日本人女性の三次元復顔法-寛永寺谷中徳川霊園墓所出土大奥女性の復顔-』で博士号(美術)を取得。研究者として、また復顔師として斯界において大きな存在感を示すことになるのです。とはいえ、頭蓋骨であればどれも同じように見えてしまう一般人からすれば、一体どのように“肉(粘土)付け”して、一人ひとりの個性が反映された顔を復元していくのか不思議でなりません。
「復顔では頭蓋骨の形やDNAのゲノム情報、ヒトの軟部組織厚(筋肉・脂肪・皮膚などの厚さ)の平均値のデータを使って行っています。しかし、現在の復顔法では科学的根拠が示されていない部分もあるため、そうした部分の造形は復顔制作者の判断に委ねられています。私は科学的根拠のない部分は左右差が出ないように造形するのですが、おそらく実際の本人の顔よりも歪みの少ない整った顔になっているのではないかと思います。
そこで私は粘土原型以降の造形作業(型取りして、素材を樹脂に置き換え、塗装や植毛をする)を自分でするのではなく、造形業者さんにお願いしています。皮膚のテクスチャー造形(特殊メイク)や植毛などの作業では造形業者さんは復顔法にとらわれることなく、その方の培った感性や感覚を頼りに行います。すると私の作った原型を維持しようとしても、そこに他者の手が入ることで1ミリにも満たないレベルで形のズレが生じます。しかし私はこのズレこそが復顔に人間らしさを加味していると思うのです。ただ、他者の手が入ることで私自身がイメージしていた顔貌からかけ離れてしまったり、違和感を覚えることもあるため、造形業者さんとは何度も話し合いながら作業を進めています。造形業者さんとの付き合いはもう10年以上になるので、最近では阿吽の呼吸でやりとりができるようになってきました。復顔制作は依頼者や監修者(考古学者や人類学者)が入ることもあるので、全員で話し合いながら作業をすると完成まで早くて3ヵ月、長いと1年以上もかかるケースもあります」
実際に作品を見せていただくと、マネキンと違ってやはりリアル感が半端なく、ちょっと怖い気がします。
「見ている人は人間の姿に近づくほど、最初のうちは親近感を抱きますが、それが限りなく人間に近づくと今度は逆に不気味さを感じてきます。では、その不気味さの正体とは一体何なのか……。その不気味さをなくすにはどうしたらいいのか……。私の研究(『不気味の谷を越える復顔法の研究』)の目的も、実はその解明にあるのです」